■「屈折異常と、その矯正 vol.1」眼は近くを見た時に、違う屈折異常に変わる。

「遠用眼鏡を作る時は、遠方視から近方視に切り替わった時の眼内の焦点変化に注意して度数を決定しなければなりません。」

 

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角膜・水晶体を通過した光が焦点を結ぶのは、「網膜よりも前で焦点を結ぶ」「網膜上で焦点を結ぶ」「網膜よりも後ろで焦点を結ぶ」この3つしかありません。網膜よりも前ならば「近視」、網膜上ならば「正視」、網膜より後ろならば「遠視」と呼ばれています。ただしこれらは、遠くを見ている状態で眼の中に入った光が眼内のどの位置で焦点が結ばれるのかを示して「遠視」「正視」「近視」と表しています。そしてこれらは近くを見た時には変化するのです。
屈折異常の基礎となる土台はこの3つで、「乱視」と言われるものがある場合は角膜の歪みによって眼の中で焦点が2つ発生する形となり、土台となる3つの呼び方が次のように変わります。

『遠視の焦点が2つ=遠視性乱視』
『近視の焦点が2つ=近視性乱視』
『遠視と近視の焦点が1つずつ=混合性乱視』
『正視と遠視の焦点が1つずつ=遠視性単性乱視』
『正視と近視の焦点が1つずつ=近視性単性乱視』

遠方視状態で眼の中で結ばれている焦点が正視や近視であっても、近方視では遠視の焦点に切り替わってしまい、それが要因となり眼精疲労を起こす事にも注意しなければなりません。


正視眼の場合

正視の眼というのは視力が良くて眼鏡が不要。しかし眼の中の焦点は、「遠くを見ている時は正視の焦点」「近くを見ている時は遠視の焦点」になります。そのため、長時間のパソコン作業などで眼精疲労を訴える人が多くなります。その理由は以下の通りです。


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遠視でも近視でもない眼が「正視」です。遠くを見た状態で角膜・水晶体を通過した光が網膜上で焦点を結んでいるので視力が良好。裸眼視力が1.2以上ある眼です。
 
 
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網膜上で焦点を結んでいる眼が近くを見た時、網膜よりも後ろへと焦点は移ります。網膜の後ろで焦点を結ぶのは「遠視の焦点」です。この状態のままだとぼやけてしまう為、眼の中では次の画像のように「調節」という作用が働起こります。
 
 
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網膜の後ろへ移ってしまった焦点を網膜上に戻すには、水晶体の屈折力を増加させる必要があります。毛様体筋(調節筋)が水晶体を厚くし、網膜上にピントを合わせる「調節」を行います。ただし、水晶体を厚くさせ続けているこの状態が長く続けば続く程、眼は疲労します。
 
 
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眼の疲労を防ぐ為には「調節」を行わないようにする事です。毛様体筋が働いて水晶体の厚みを増加させ、光の屈折を強めるのが「調節」です。凸レンズを装用すれば光の屈折を強める事が出来るので、毛様体筋を働かせて水晶体を厚くする必要もなく、網膜上にピントを合わせる事が出来ます。老眼の年齢でなくても既製品でいちばん弱い度数の眼鏡を長い時間の近距離作業を行う時に使うと眼の疲労を予防出来ます。


遠視眼の場合

遠視眼はその度合いにより二通りの考え方があります。一つは、調節力を使って網膜上にピントを瞬時に合わせてしまう事が可能な【1.弱度の遠視】の眼。
※検眼すると正視ではなく、弱度の遠視が見つかる眼
もう一つは調節力を使っても網膜上にピントを合わせる事が不可能な【2.中等度以上の遠視】の眼。
※眼鏡をかけていないと遠くも近くも見えない強い遠視の眼
前者は常日頃から眼鏡は装用していません。主に長い時間のパソコン作業で眼の不調が現れます。
後者は常に眼鏡を装用しています。近方視で眼が疲れる場合、遠方の度数不足が要因となります。



 

 1.弱度遠視の眼 
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視力も良く、普段の生活で眼鏡が必要にならない弱度の遠視眼は【潜伏性遠視】とも言われ、近方視で本来の姿が顕著に現れます。近方視では正視眼以上に網膜の後ろへ焦点が移ってしまいます。本来は手元がぼやけてしまうのですが水晶体に柔軟性が備わっていれば厚く変化させ、網膜上にピントを合わせる事が出来ます。しかしずっとこの状態を維持しなくてはならない為に疲れやすく、疲労が原因で遠くも近くも見づらくなってしまう人もいます。今まで眼鏡装用の経験が無い人達なので不安になり眼科を受診する社会人が非常に多いです。

※老眼と勘違いする人も居ますが、老眼とは一定年齢以上から始まる調節力の衰えによって、調節力不足の為に近くが見づらい症状なので種別が違います。上記は「調節過多」が原因。

 
 
隠れている遠視を見つける事が重要なので、このような検眼をします。
「雲霧(うんむ)法」
 
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まず、視力検査とは近視の眼が基準となります。例として裸眼視力が1.2の眼を一旦、近視と同じ状態にします。良い視力の眼に凸レンズの+3.00Dを装用させると、眼の中は「-3.00Dの近視」と同じ焦点になります。視力表の0.1がぼんやり見える程度です。
 
 
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凸レンズの度数を+3.00Dから⇒+2.50Dにすると0.2が見え、+2.50Dから+2.00Dにすると0.5が見えてきます。眼の中は、近視の人が裸眼から凹レンズを徐々に足して行くのと同じ状態になっているからです。

※調節力が働くのは網膜の後ろへ焦点が移動した時で、近視眼は網膜よりも前に焦点がありますから調節力とは無縁。凸レンズを付けて本来よりも見えないようにする目的は、眼の中を近視眼と同じ構図にする事で調節が効かない状態を作り出しており、そうすると隠れている正確な遠視を測定する事が出来るのです。

 
 
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+1.50Dから+1.00Dまで度数が下がると裸眼視力と同じに。つまり、「裸眼でも1.2」で、「+1.00D装用でも1.2」です。検眼は、視力が良く出る最も凸(プラスレンズ)寄りの度数を選択する事と定められていますので、この人の場合は、裸眼視力1.2と同じ【+1.00D】が遠方矯正度数になり、この眼鏡1つで遠くも近くも見えます。

※何故、普段から視力の良い人に眼鏡が必要になるのか?その理由は以下の通りです。

 
 
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遠くを見ている時は眼というのはリラックスした状態になります。これは裸眼の人も、眼鏡をかけている人も共通です。リラックスした状態というのは毛様体筋(調節筋)が働いていない、「調節」が起こっていないという状態の事を言います。この「調節」というのは、近くを見ている状態で網膜よりも後ろへ焦点が移ってしまう場合に起こりますので、それを防ぐのは遠用度数です。遠用眼鏡というのは、近くを見る時に「調節」が起こりにくい度数に定める必要があるのです。

※遠用眼鏡の装用に慣れていない人なら、近くの作業の時に使用するだけでも効力が充分あります。(老眼鏡ではありません。)



 

 2.中等度以上の遠視の眼 
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若年層で終日の遠視矯正用眼鏡を装用している場合、その理由は子供の頃に強い遠視が見つかった人です。生まれた時の強度遠視が成長過程で徐々に減り、就学頃に正視となって行く過程で、まだ強い遠視が残っている事があります。放置すると弱視になるので眼鏡が遠視治療用具になります。眼鏡で過ごし、年齢が上がるに連れて眼に物を見る力が備わって来ると同時に強い遠視が弱くなり、眼鏡不要になる場合もありますが、引き続き眼鏡装用を要する場合もあるのです。

画像のように遠視が強いと、遠くを見る際も自分の調節力では焦点が網膜上に合わず、近くを見ると更に後ろへ焦点がずれてしまいます。これが裸眼では「遠」も「近」も見にくいと言う意味です。

 
 
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遠用眼鏡を装用すると自分の調節力を使っても網膜上に合わせられなかった焦点を網膜上に楽に合わせる事が可能になります。視力も良好な視力となります。
 
 
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遠視の矯正には注意点があります。遠用眼鏡で遠くが見やすくなったのは良いのですが、近くの物を見た時に再び網膜の後ろへ焦点がずれてしまう事です。そうなると、調節力を使って網膜上にピント合わせをしなければなりませんので疲労の原因となります。このようになる理由は、遠くの視力を出し過ぎてしまっている為です。

【遠視は、強めに合わせる】事が望ましいとされています。そうする事で手元を見ている時にも調節力を使わず網膜上にピントが合うので眼が疲れなくなります。
※通常、「強めに合わせる」と言うと「視力を出す」事と思いますが、遠視(凸レンズ)を強く合わせるという事は、次の通りです。

 
 
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凸レンズによる矯正で、①と②の例を比較します。

①矯正によって1.2まで視力が出たそのままの度数で眼鏡処方する。この場合、眼の中の焦点は正視眼と同じ網膜上に焦点が合っています。

②凸レンズの度数をあえて凸側(プラス側)にシフトさせ、視力を1.0に抑えて眼鏡処方する。この場合、眼の中の焦点は網膜よりもやや手前で弱い近視の裸眼と同じ状態になっています。

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基本的に眼鏡というのは遠くを良く見えるようにするよりも、近くを良く見えるようにした方が眼精疲労が起こりにくくなります。眼鏡装用者の年齢が低い程、大人とは違って見ている範囲も低く狭い範囲に集中します。大人でも1日の大半を近距離を見て過ごす人も現代はとても多いものです。

以上の理由から、近くを見た時に網膜上に焦点が合うように遠方度数を定めた、②が理想的な眼鏡処方となります。①の眼鏡では近くを見た時に、網膜の後方に焦点がずれるので網膜上に合わせる為の「調節」が起こってしまうのです。



 

近視眼の場合

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近視眼は外界から入る光が、遠方視では網膜よりも前方で焦点を結んでおり、近方を見た時は弱い近視眼は網膜上で焦点が結ばれ、強い近視眼はやや手前で焦点が結ばれます。その理由から近視は遠くが見づらいが、近くが見えるという事になり、正視眼や遠視眼で触れたような、近くを見ている時に焦点が網膜の後方に位置すると起こる「調節」とは縁がありません。「遠くが適度に見づらい眼」というのは、反対の表現では「近くが見やすい眼」という事になるので、「近見視が多い現代では理想的な眼でもある」とも言われています。

しかし近視の眼は、遠くが見づらいままでは困る為、視力を上げる必要が出てきます。「調節とは縁がない」と記しましたが、視力を矯正した後の眼鏡を装用した眼の中の焦点に注意しなければなりません。

同じ近視でも眼鏡を時々使用する【弱度】と言われる弱い近視の眼。眼鏡を常時かけていないと生活に支障が出る【中等度・強度】と言われる強い近視の眼。大きく分けるとこの2つの分類になり、「見ている距離」と「矯正眼鏡の度数」が噛み合っていない時には「裸眼の正視」や「遠方度数不足の遠視」と同様に「調節」を招き、眼が疲労します。

眼鏡装用時の眼内の焦点は、次の3つが挙げられます。
①「正視に近い焦点になる。=低矯正」
②「正視と同じ焦点になる。=完全矯正」
③「遠視と同じ焦点になる。=過矯正(かきょうせい)」
 
 
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①「正視に近い焦点になる。=低矯正」これは、子供の頃から眼鏡を使っている裸眼視力が0.1以下の強い近視の人達に多い合わせ方です。視力を出し過ぎると手元を見た時にクラクラして眼が疲れてしまいます。起床してから就寝直前まで眼鏡をかけていますので、基本的に眼鏡は弱めに合わせています。弱い眼鏡にする事で、眼鏡をかけたまま近距離を見た時に眼の中の焦点は網膜上にちょうど合うからです。「遠くを程々」にしておけば、近くが見やすいのです。

■視力表の一番上の0.1が見えない場合は、0.1以下の測り方をします。検者が手に0.1と同じ視標(ランドルト環)を持ち、5m先から歩いて来て、4mの所で視標の判別が出来ればその裸眼視力は0.08。
3mの所で視標の判別が出来ればその裸眼視力は0.06。
<0.1以下の測り方>

 
 
 
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②「正視と同じ焦点になる。=完全矯正」これは、裸眼で視力表の半分程度が見える弱い近視の人達の合わせ方です。家の中は裸眼でも問題がない弱い近視の眼は、眼鏡を1.2、またはそれ以上が見えるように合わせてもその矯正度数は大して強くありません。子供を除いた成人では、持っている眼鏡は視力を目一杯に出した「完全矯正」、「フルコレクション」と言われる合わせ方になっている場合が多いです。

ただし、「裸眼で視力表の半分程度が見える」という眼は、眼前70~80cmくらいまでの近距離がはっきりと見える眼ですので、眼鏡をかけたままでの長い時間のパソコン作業では、眼の中の焦点が網膜よりも後ろに移って、眼の中で「調節」が起こるので注意が必要です。裸眼の方が網膜上に焦点がちょうど合うので「調節」が起こりません。
御自身の裸眼の【近点】を把握しておきましょう。

■近視の眼は、一定の距離までは裸眼で良く見えています。そこから先が見えないので眼鏡を必要とします。逆に考えると、裸眼で良く見えている範囲内を遠くが見えるレンズで見ていると眼が疲れてきます。眼鏡を外した方が柔らかな見え方になります。
※老眼の症状ではありません。子供も大人も皆、近視の眼は同じです。

裸眼の【近点】は、近視の度合いによって違います。眼の度数によって裸眼明視距離は変わります。
【近点】眼鏡をかけない状態で文字が読める距離 / -0.50D ~ -5.00D

【近点】眼鏡をかけない状態で文字が読める距離 / -5.50D ~ -10.00D

 
 
 
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③「遠視と同じ焦点になる。=過矯正(かきょうせい)」これは、眼鏡の度数が御自身の屈折度数を超えてしまっていて、その眼鏡をかけると眼の中の焦点が網膜よりも後ろになってしまうという、いわゆる「強過ぎの眼鏡」です。

【調節緊張のしくみ】
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弱い近視眼の人達で、眼鏡が強過ぎになっている原因として挙げられるのは、「眼が非常に疲れている時に眼鏡を作った」という事。「調節緊張」という症状に注意が必要です。

近い距離を見て過ごす時間が長い程、毛様体筋(調節筋)が水晶体を厚くし続けており、毛様体筋の動きが鈍くなってしまい、そのままの状態で固定されてしまう事があります。そうすると、近くを見ていた厚い水晶体のままで遠くを見る事になり、いつもよりも遠くがぼやけてしまうので、「以前よりも眼が悪くなったのでは・・」と思う人が殆んどです。

そのような状態の時には近視の度数もいつもより強く検出されるのですが、視力もすんなり上がらない事が多いです。成長期を過ぎていれば近視が進行する事は基本的にありません。そのような時は眼を休めた後で検眼を行うのが理想的です。


【強度の眼鏡が使いにくいのは・・】
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強い近視眼の人達で、眼鏡が強過ぎになっている原因として挙げられるのは、老眼が始まっている年齢であり、「コンタクトレンズ装用時間の長い人」が持っている眼鏡です。

近視の度数が強ければ強い程、装用感でコンタクトレンズに勝る物はありません。眼鏡で視力を強く出した時の違和感がコンタクトレンズには無いので、どうしても装用時間か長くなりがち。眼鏡を持っていても使用しない人もおります。意外と多いのが、持っている眼鏡は大分以前に作ったままで度数の確認はしていない・・・という人がおります。近視の眼が老眼になると、以前よりも弱い屈折度数で以前と同じ視力が出るようになります。例えば「-5.00D⇒視力1.0」が「-4.50D⇒視力1.0」というように。
長い期間、眼鏡の度数を確認していない場合、眼鏡の度数が御自身の眼よりも強い近視になっている事が多々あります。

■コンタクトレンズを常に装用している人の眼鏡は、近くが見やすいように合わせておくと良いです。これは若い人もそうでない人も同様。利点として、3つのポイントが挙げられます。

1.弱く合わせた眼鏡は、装用感がさほど悪くないので、コンタクトレンズを外しておける時間が稼げます。眼のためにもその方が良いのです。

2.弱く合わせた度数は、ほどよく近い距離にピントが合うので、部屋の中のような中間距離が裸眼よりも見やすく、場合によってはコンタクトレンズよりも見やすくなります。

3.弱く合わせた度数は、強い度数のように視野が狭くなりません。一番多い声が、「眼鏡は端の方を見ると怖い・・」と聞きます。これは遠くが見えるように合わせた眼鏡をコンタクトレンズを外した後に使っているからです。度数を工夫しましょう。