遠視(子供の遠視と眼鏡矯正)

点眼薬を用いての検査

【潜伏性遠視を見つけるため】
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遠視は、角膜から網膜までの長さ『眼軸』が短く、眼に入ってきた光が網膜の後方で像を結び、物がぼやけて見える状態です。軽度の遠視なら視力は良いですが、それ以上では遠くも近くもぼやけて見えるため視力が発達しない場合があり、矯正しないで放置しておくことは危険です。調節麻痺剤『散瞳薬』を用いて子供の強い調節力を麻痺させてから実際にどれだけの遠視が潜んでいるのかを検査します。


【強い調節力を取り除く】
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子供の場合、眼の中の筋肉『毛様体筋』が水晶体を引っ張ったり緩めたりしてピント合わせをする勢いがたいへん強いので、この調節力を一旦取り除いて正しい屈折度を検査しなければなりません。近くを長時間見ていれば、それなりに近くが見やすいようにピント合わせが固定されたままでの視力検査は、本来の屈折度が曖昧になるなど望ましくありませんので調節麻痺剤『散瞳薬』を点眼に用いて屈折検査を行います。近視の子でも強い調節力がある場合、医師の判断により行います。


【屈折能検査点眼剤】
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10歳前後の子供の場合、サイプレジン点眼薬を用いて屈折検査を行う事がほとんどです。サイプレジン点眼薬は副交感神経麻痺作用により、眼のピント調節を行なっている毛様体筋に働き、余分な眼の緊張を取り除いて正しい屈折状態を検査するために使用します。


眼の成長期(視覚の感受性期)の遠視に注意!

視覚の発達する時期【視覚の感受性期】は、生後3ヶ月~6ヶ月ぐらいまでに急速に発達し、8歳ぐらいまでに緩やかに発達して行きます。この時期に視覚の発達を妨げる強い遠視が見つかった場合はすぐに遠視の治療を必要とします。視覚の感受性期を過ぎてしまうと強い遠視を治療する事が出来ないからです。

この時期にかける眼鏡は一般的な眼鏡とは異なり、眼の成長期に色々なものをたくさん見て、視力を育てる為の治療用眼鏡です。遠視は遠くも近くもピントを合わせる力(調節力)が働かなければ見えない眼です。特に子供は調節力が大きいので、かなりの遠視でも眼鏡をかけないままでもよく見えますが、その遠視の度が原因で起こるさまざまな症状に注意していかなければなりません。

1.)弱度の遠視は物を見ようとする時、常に調節をして見ています。その為、眼の疲れや頭痛などを起こしやすく近業作業が苦手、根気がないなどの症状があらわれます。まだこの段階では眼鏡装用の必要性はない場合がほとんどで、経過観察段階です。
2.)中度の遠視は極度のピント合わせ(調節)と内寄せ(輻輳ふくそう)により、眼が内側に寄ってしまう「調節性内斜視」になる事があります。眼鏡をかけて両眼の向きが真っ直ぐになるのであれば眼鏡装用が必要で、専門的な検査をおこなった上で医師が判断します。
3.)強度の遠視では調節の範囲を超えてしまって、ピントの合わない状態が続くことで視力の発達が妨げられ、度を合わせても視力の出ない弱視になる事があります。眼鏡装用による弱視治療が必要です。
※お子さん達は見え方に不具合があっても、本人にとってはそれが「当たり前」の状態なわけですから、本人が異常を訴える事はあまりないようです。そして必ずしも両眼同時に見えにくくなるわけではありません。片方の眼は問題なくても、もう片方の眼に強度の遠視がある場合もあります。これらに思い当たる事があれば眼科受診をおすすめします。
●横眼で見ている
●片眼をつむる
●よく物にぶつかる、転びやすい
●どちらか一方の眼を隠すと嫌がる
●顔をいつも同じ方向に傾けて見ている


眼鏡矯正例(子供の遠視)小学校 低学年

<検眼結果 -来院時->
一見、視力が良くないと「近視かな?」と思うでしょうが、7歳という年齢ですと医療機関では「遠視」を疑います。
R)裸眼視力0.5
L)裸眼視力0.7
【屈折度の矯正】
R)sph+4.25D 矯正視力0.7
L)sph+4.25D 矯正視力0.7
『散瞳薬』を用いて屈折検査を行った結果、「遠視」が見つかり裸眼視力、矯正視力が良くありません。このまま放置しておくと視力が出なくなる恐れがありますので早々に眼鏡を作製。遠視の眼鏡をかけると近くが楽に見え、眼が疲れなくなります。そして【入浴時】【就寝時】以外は眼鏡装用が基本となります。
 


<眼鏡装用結果>
※2ヵ月後の検査
R)裸眼視力1.2
L)裸眼視力1.2
【屈折度の矯正】
R)sph+4.25D 視力1.2
L)sph+4.25D 視力1.2
遠視の眼鏡をかけて網膜上に正しい像を結ばせ、裸眼視力が大人と同じ1.2の視力になりました。来院時のように視力が出なくなる恐れはもうありません。子供の場合、遠視の眼鏡をかけることにより視力が出てくると、眼鏡を外しても見えるので外してしまいがちになりますが、子供は無理してピントを合わせるので眼鏡は外さない方がいいでしょう。

※国内は比率として近視が多いので、「近視を対象にした記述」がほとんどです。遠視の場合は考え方や眼鏡の装用方法が近視とは異なります。決して「視力が良くない=近視」と決め付けないで下さい。


学校検診のABCD

学校で視力検査が行われると、このような内容が書いてあります。

視力について
A (1.0可)
軽い遠視や乱視が含まれる場合もあるが、日常生活上の配慮はいらない。
B (0.7可)
教室の最後列からでも黒板の小文字が読み取れる視力。本人が不便を訴えない場合、座席の配慮はいらない。
C (0.3可)
座席によっては黒板の字が見えにくいことが多く、眼鏡が必要な場合があるので眼科で検査を受けさせる。
D (0.3未)
教室の前列にいても黒板の字が見えにくい視力。早急に眼科で検査を受けさせることをすすめる。

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ABCDの、それぞれを詳しく

視力と眼鏡について
A
片眼ずつの視力が1.0以上。入学したばかりの頃(1~2年生)は、正視眼や微量の遠視眼が多く、視力も良好な為にAが圧倒的に多いです。眼科での視力検査も短時間で終わります。
B
片眼ずつの視力が0.7以上。このBについては、裸眼視力から注意して測定します。眼を細めて見る子(高学年)がいるからです。逆に、眼が疲れている為に視力が悪い子(低学年)もいるからです。再度、測定したらAの子や、逆にCの子も毎年多くいるのがB群の特徴です。
C
片眼ずつの視力が0.3以上。0.3も0.6もC群に入りますが、両者の見え方は大きく異なります。Cの視力になると近視です。学年や座席の位置によっては眼鏡が必要になります。高学年になるとCの比率が多くなります。
D
片眼ずつの視力が0.3未満。学業に支障がでる視力となります。遠くを日常的に眼を細めて見ていますので、眼に負担がかかっています。眼を細めないで見る事が出来るように眼鏡をかける必要があり、高学年以降から眼鏡を常用する子が多くなります。


年齢が若いほど「視力が悪くなったのかな・・」と断定し、直接に眼鏡店へ行って眼鏡を作るのではなく、必ず眼科で検査を受けて下さい。そして、現代は近くを見る時間が非常に長くなりがちな為、以下の症状がとても多くなっています。


毛様体筋の疲労によって起こる調節緊張症に注意!

長時間に渡って近くを見続ける事で、絶えず水晶体を厚くして近距離にピントを頑張って合わせている毛様体筋が硬直状態になってしまう事です。そうなると、遠くを見ても眼の中は近くにピントが合った状態で固定され、遠くに焦点が合わせられなくなります。一時的に近視と同じように視力が悪くなるので「偽(ぎ)近視」とも言いますが、現在では調節緊張症と呼ばれています。眼が非常に疲れているのが要因です。
 
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眼は近くを見る時、網膜上に正しく焦点を合わせる為に毛様体筋(調節筋)に力が加わり、水晶体を厚くして光の屈折を強めて網膜上にピント合わせを行います。
反対に遠くを見た時は水晶体の変化は起こらずに薄いままで、毛様体筋(調節筋)にも力が加わりません。これが眼のピント調節機能です。
 
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長時間水晶体を厚くして近距離にピントを頑張って合わせている毛様体筋が硬直状態になってしまう事があります。
 
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本来なら、遠くを見れば毛様体筋が緩んで水晶体が薄くなるのですが、毛様体筋が硬直状態になっている為に水晶体が薄くならず厚いままなので眼の中に入る光が網膜よりも前で焦点が結像してしまいます。

 
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近視の眼球の中と同じ焦点結像になってしまうので遠くがぼやけてしまうのです。「近視」は奥行きの長い眼球で、光が眼の奥まで届かずに網膜の手前で結像する為に遠くがぼやけます。調節緊張症と焦点は似ていてもこちらは根本的に眼球が近視の形なのです。
 
 調節緊張症の注意点 

毛様体筋が疲労している硬直状態で視力検査を行うと、本来は近視ではない子も近視というデータになり、軽度の近視の子も度数が実際よりも強い近視のデータとなります。また、毎年実際にある例として、時間をかけて専門的に視力検査をした結果、近視ではなく極めて正視眼の状態であった例も数多くあり、弱い近視の度数の眼鏡をかけて来院した子が検査の結果、近視ではないという例もあります。子供の眼は非常に判断が難しい眼なのです。


眼鏡装用中の成長過程の子供は、度数はまだ大丈夫でも瞳孔間距離(PD)は広くなっています。
成長と共に、瞳から瞳までの距離も広くなるっている!